一歩前進−26(47) 夜間飛行

 夜間飛行は、官民を問わずパイロットには欠くことのできない重要な科目の一つである。
 操縦そのものは、昼間でも夜間でも大きな違いはない。ただ見えない(暗い)という心理的なものが大きなウェイトを占める。
夜間飛行の前には、一口必ず何かを口にする習慣が付いた。万が一のとき一分でも長生きするためである。
 離着時必ず酸素を100%する。計器飛行になるため航空機が安定するまで昼間より緊張する。心身の安定と夜間視力を安定させるためにも必要なのである。
上昇中あるいは訓練中東の空に向かっての飛行は精神的にいやである。ブラックゾーンに向かって吸い込まれそうな感じがする。
 反面、西に向かっての飛行は、日没になっても高く上がればあがるほどまだ明るく太陽に向かっての飛行となる。
四季折々の夕焼けの中で山や雲、そして日本海を望む景色は実に素晴らしいものである。こんな感覚は、10年以上飛行してからでないと余裕を持って味わえない。
 三陸海岸を海に向かって飛行するとただ漁火と星だけの世界となり特に秋はイカつり漁船と町を間違うことがある。計器を見ても頭の中では背面飛行になったり降下したり上昇したりする。まさしく「バーティゴ」なのである。こんなときは180°旋回し、西の方向に向かう。まだ、薄ぼんやりと明るさがあり「バーティゴ」から解放される。
今は、町の灯火が日本中を覆っているが昔は本当に大きな町だけが灯の固まりとなって町が点在していた。
大まかな地図だけで地点目標を選定すると夕暮れから夜にかけ「町の大きさ」が変化することにより自分の位置ををロストしたり航法を失敗したりしたものである。これは、暗くなるにつれ電気がともり灯の光によって町の大きさが変化していくことによるものである。
 車のライト、各種宣伝のライトの変化によることもある。
30〜35年ほど前、松島基地に於いても夜間飛行訓練の着陸時矢本町の「なかみちどおり」の商業用街灯と「滑走路ライト」を間違えてアプローチした若いパイロットがいた。
 今はそのようなことはないが、あのころは、町の灯りも少なくおまけに滑走路とほぼ同じ方向に道路があり街灯だけが目立っていたためでもある。
 今では、滑走路のライトより周辺の方が明るいため着陸の妨げになることもある。
 何となく付いているパチンコ屋のライト、ゴルフ練習場のライト、野球場のライト、そして車のヘットライト、飛行機の着陸に大きく影響していることも知ってもらいたい。