一歩前進―52(36 緊急事態2:教官として)

 教官として学生と共に飛行する場合、一番気をつけるのが学生が自らの努力で結果として日一日とプログレスがあることである。
そんな中で常に気にとどめておくことがある。
飛行機は、人間が作った物であり空中あるいは地上にあったとしても「故障」があり、上空にある物は、落下すると言うことである。
いわゆる、「緊急事態」であり常態である事の認識を持つことである。
教育は、あらゆる事態を想定し教育し、対処は、速やかに正しくおこなえるよう体に覚え込ませる。
F−86Fの教官でのことである。
 学生と共に飛行中数度緊急事態を体験したがその一部を記してみたい。
教育の初期段階、編隊飛行訓練中であった。空域は、宮古沖の太平洋上であった。
高度25000フィート、300ノット、空中集合訓練中であった。
突如、「教官、ハイドロアウト・ライトが点灯し、操縦桿が重くなりました」とのボイスが入った。
速やかに学生機に接近すると共に、計器、ライト、操舵感覚を問い、機首を飛行場に向けさせた。
学生は、落ち着き珍しく状況をつぶさに報告してきた。
現在の状況から飛行に大きな問題はなく、まがりなりにも飛行できる状態であった。
学生には「飛行中における航空機の特性と操縦に関する着意事項」「着陸操作時および着陸後の着意事項」「精神安定」に関する指示を出した。
松島基地上空8000フィートで「GEAR DOWN(脚下げ)」を指示し、脚をおろさせた。
同時に、脚系統および操縦系統のハイドロが全部流れ出た。
大変である、操縦は更に重くなり着陸操作や着陸滑走中事故の可能性が出てきた。
これは、学生にはいえない。
「いつもと同じ」「ハイドロ・アウトの着陸をせよ」と指示し、着意事項を学生に言わせた。
手順の確認と学生の精神安定を図った。
着陸時の操縦に関する着意、風に対する着意等を確認させ、くわえて着陸後の方向維持、ブレーキ操作を確認させた。
地上には、ハイドロが漏れていること、ブレーキにも影響が出るのでOFFR/Wの可能性と救急車の用意等を指示した。
WELL DONE無事着陸。この日の学生のグレードは、珍しく「優」であった。